防災における法律の基本|企業の義務を理解して取り組みに活かす

防災における法律の基本|企業の義務を理解して取り組みに活かす

「防災に関する法律には何があるのだろう」

「企業防災で守るべき法律はあるのだろうか」

「災害対策基本法って何?」

このように企業防災について悩みを抱えている企業は多いのではないでしょうか。

企業で防災対策をするのであれば、基本となる法律や企業に影響のある内容はしっかりとおさえておきたいですよね。

この記事では、防災に関する法律について解説します。

記事後半では企業防災についても紹介するので、この記事を読めば防災の法律について理解したうえで防災活動に取り組めるようになります。

防災の知識を深めたい方や企業の防災対策でお悩みの方に、ぜひお役立ていただけますと幸いです。

目次

防災に関する法律の基本

日本には、数多くの防災に関する法律が存在します。そのすべての法律のなかでも、基本となっているのが『災害対策基本法』です。

ここからは、災害対策基本法について紹介します。

すべての基となる災害対策基本法

災害対策基本法は、1961年の伊勢湾台風による災害をきっかけに制定された法律です。災害時に国土や日本国民の命と体、財産を保護することを目的として制定されました。

伊勢湾台風は、昭和の三大台風のひとつで1959年に紀伊半島の南端に上陸した台風。高潮によって愛知県や三重県の伊勢湾沿岸を中心に、<s死者・行方不明者約5千人に及ぶ大被害となりました。

伊勢湾台風の被害を受けて制定した災害対策基本法の制定により、国や都道府県、市町村、住民のそれぞれが、責任を持って防災へ取り組むよう義務付けたのです。

災害対策基本法は、以下の6つから成り立ちます。

  1. 国・都道府県・市町村・公共機関・住民における防災責務
  2. 国や都道府県、市町村ごとの災害対策組織の整備
  3. 行政機関・公共機関・地域における防災の長期的で総合的な計画
  4. 段階的で主体的な災害対策の推進
  5. 災害時の財政援助・助成など
  6. 災害時の緊急事態における措置

災害対策基本法は、すべての防災に関する取り組みの基盤です。

災害対策基本法を基に、国の防災計画である『防災基本計画』が作られています。さらに、防災基本計画を基に指定公共機関の『防災業務計画』や、地方自治体の『地域防災計画』も作成されています。

災害対策基本法によって、総合的で計画的な災害に備える体制が作られているのです。

災害対策基本法を基にした防災に関する法律は、以下の3つにわけられています。

  • 予防
  • 応急
  • 復旧・復興

それぞれに分けて、防災に関する法律を紹介します。

予防

災害の予防活動に関する法律は、災害の種類によってわけられます。

以下の表に、災害ごとの法律をまとめました。

<災害の予防活動に関する法律>

地震津波大規模地震対策特別措置法津波対策の推進に関する法律地震財特法 地震防災対策特別措置法建築物の耐震改修の促進に関する法律 密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律 東南海・南海地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法
火山活動火山対策特別措置法
風水害河川法特定都市河川浸水被害対策法
地滑り土砂崩れ土石流砂防法森林法特殊土壌地帯災害防除及び振興臨時措置法 地すべり等防止法 急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する 法律 土砂災害警戒区域等における土砂災害防止 対策の推進に関する法律
豪雪豪雪地帯対策特別措置法
原子力原子力災害対策特別措置法

(参考:内閣府 防災情報のページより主な災害対策関係法律の類型別整理表

応急

災害の応急活動に関する法律には、以下があります。

  • 災害救助法
  • 消防法
  • 警察法
  • 自衛隊法
  • 水防法

復旧・救護

災害の復旧・救護活動に関する法律は、対象によってわけられます。

以下の表に、対象ごとの法律をまとめました。

<災害の復旧・救護活動に関する法律>

災害復旧事業等への国庫補助の特別措置等激甚災害法
被災者への救済援助措置中小企業信用保険法 天災融資法 小規模企業者等設備導入資金助成法 災害弔慰金の支給等に関する法律雇用保険法 ・被災者生活再建支援法 株式会社日本政策金融公庫法
災害廃棄物の処理廃棄物の処理及び清掃に関する法律
災害復旧事業農林水産業施設災害復旧事業費国庫補助の暫定 措置に関する法律 公共土木施設災害復旧事業費国庫負担法公立学校施設災害復旧費国庫負担法被災市街地復興特別措置法 被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法
保険共済制度森林国営保険法農業災害補償法 地震保険に関する法律
災害税制関係災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に 関する法律
その他防災のための集団移転促進事業に係る国の財政 上の特別措置等に関する法律 

(参考:内閣府 防災情報のページより主な災害対策関係法律の類型別整理表

改定され続ける防災の法律

すべての防災に関する法律の基となっている災害対策基本法は、実は毎年改定されています。災害の度に見つかる課題を克服し、より被害を抑えられるように改善するためです。

例えば、2011年の東日本大震災をきっかけに法改正がおこなわれ、災害発生時に公道をふさぐ放置車両の強制撤去が可能になりました。緊急車両の通行ルートを確保するためです。撤去した車を一時的に置くための、沿道の民有地の利用や木の伐採も認められています。

自分たちの力で発生を防げない災害の被害を抑え、より復旧に力を入れるために、こうした災害対策基本法の法改正は重要なのです。

災害の被害については災害の被害に備える|実例・想定を知り対応できる体勢を整える海外の災害事例|過去の災害を知り今に活かすで紹介しています。よろしければ、ごらんください。

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法律で定められない企業の防災対策

実は、企業に対して適用される防災の法律はありません。しかしながら、企業には『安全配慮義務』が義務付けられています。

安全配慮義務とは、労働契約法という法律の第5条によって定められた義務です。正規・非正規を問わず、同じ事業所で働く全従業員の安全を守ることを目的としています。企業によっては派遣労働者や店への来客者も対象にふくまれます。

企業は安全配慮義務を守る必要があるため、違反すると損害賠償金を支払う場合があります。自然災害も例外ではありません

災害への対策が不十分で従業員が被害を受けた場合、安全配慮義務違反として法的責任を問われ、損害賠償金を支払うことになるのです。

例えば、2011年に発生した東日本大震災では、自動車学校の会社と役員らに損害賠償が求められました。

津波によって教習生24人と職員1人が犠牲になり、遺族らが安全配慮義務違反や過失があったとして訴えたためです。仙台地方裁判所の第一審判決では、法的責任が認められました

企業に適用される防災の法律はありません。しかしながら、従業員を守るための法律で定められた義務により、防災と法律が無関係とは言い切れないのです。

安全配慮義務を守る企業防災

企業が損害を受けないために大切な安全配慮義務を守るには、防災対策が重要です。防災対策を徹底することが、従業員を守る行動につながるためです。

自然災害へ対して企業がおこなう取り組みを企業防災と言い、企業防災では『従業員や顧客の安全確保』と『重要業務の継続』の対策が求められています。

企業防災で求められる対策は、大きく分けると以下の2つです。

  • リスク管理と事業復旧に係る対策
  • 災害時に備えるための安全対策

それぞれ詳しく紹介します。

リスク管理と事業復旧に係る対策

リスク管理と事業復旧に係る対策では、リスクマネジメントが大切です。リスクマネジメントとは、想定されるリスクを管理し、リスクによって発生する損失の回避や低減を図るための取り組みを指しています。

リスクマネジメントとは?わかりやすく解説!具体的な取り組み手法も紹介ではリスクマネジメントについて詳しく解説しています。よろしければ、お役立てください。

リスクマネジメントのなかでも重要なのが、BCPの策定です。BCPとは、災害などの緊急事態における事業継続計画(Business Continuity Planning)のこと。被害を最小限に抑えて重要な業務を継続し、早期復旧を図るためのものです。

BCPについては、BCP策定の重要性とは?初めてでもわかる策定手順とメリットで詳しく解説しています。よろしければ、ごらんください。

リスクを洗い出し、災害後を見越した事業計画をたてることで、災害が起きた際に慌てず対応できるのです。

災害時に備える防災対策

災害時に備える防災対策では、災害の発生を想定したマニュアルの導入が大切です。

災害時には、予期せぬ事態に慌ててしまう人が多いもの。混乱した状況下でも冷静で適切な判断をおこなうために、従業員の命を守るマニュアルの導入が必要なのです。

また、マニュアルの作成に加え災害時を想定した訓練をしておく必要もあります。

防災のマニュアルや訓練については、企業の防災マニュアル|重要性を理解して活用するもしもに役立つ防災訓練|災害に強い企業を目指すで詳しく解説しています。よろしければ、お役立てください。

マニュアル導入の他、重要なのが防災備蓄。都道府県や政令指定都市などが条例を定め、企業に防災備蓄を努力義務として求めています。

例えば東京都で定められているのは、災害時に従業員が帰宅できなくなったときの対策である『帰宅困難者対策条例』。

具体的には、従業員1人あたり3日分として以下の備蓄を求めています。

  • 水9リットル
  • 食料9食
  • 毛布1枚

3日分の備蓄が求められているのは、交通機関が麻痺した場合に帰宅困難者が発生すると想定されるためです。災害後に無理な帰宅を始めると、人命救助の妨げや群衆雪崩などになることも考えられます。

加害者にも被害者にもなり得る状況を回避するためにも、防災備蓄が求めらえているのです。

防災備蓄については、企業防災の備蓄品|もしもにそなえてできることが役立ちます。よろしければ、ごらんください。

防災の法律まとめ

今回は防災の法律と企業が取り組むべき安全配慮義務について解説しました。

防災に関する法律は様々なものがありますが、すべての基となっているのは災害対策基本法です。災害対策基本法は、災害の被害を軽減して復旧により力が入れられるよう毎年改正されています。

企業に適用される防災に関する法律はありません。しかしながら、企業には安全配慮義務があり、従業員の命を守る義務があります。

従業員の命を守るためには、リスク管理や備蓄といった企業防災が必要です。リスクを管理して対策をたてることで、復旧に力を入れられるようにしましょう。

防災備蓄は努力義務として、都道府県などで定められています。従業員を守るために、しっかりと備蓄して災害に備えましょう。

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